残業代と労働基準法

ちょっといろいろあって残業代と労働基準法について調べる必要があったので、他にも役に立つ人がいるかもしれないので書いておきます。

よくうちの業界(ソフトウェア産業)で年俸制でも残業代が出ないということを耳するので、そんな給与制度もあるんだー程度に思っていました。が、今回調べてみて分かったことは労働基準法では労働者が同意しない限りは残業代は出さなくてはいけない事になってる、ということです。

残業代が出ないというケースは年俸制の報酬に残業代が含まれる場合と裁量労働制でみなし労働時間による場合があります。

年俸制に残業代を含める場合、企業側には契約時、就労規則、給与明細などで何時間の残業代が年俸に含まれて、基本給と残業代が区別できるように明示する義務があります。年俸に含まれる残業時間を超えた場合は追加の残業代を支払わなくていけないし、年俸に含まれる残業時間と実際の残業時間がかけ離れている場合には是正しなくていけなくなっています。

これらの義務を企業側が怠った場合、裁判所は残業代を年俸に含めることを認めず、年俸を基本給として100%の残業代を支払うよう命令します(過去の判例からこれは明らかです)。

なので年俸制に残業代を含める場合にはあんまり多くの残業代を含めてしまうと、企業側は余計な残業代を払わないといけない場合があったり、条件の悪い労働条件を提示しないといけなかったりするので、労働者にとっても企業側にとってもそれなりにフェアな方法です。

問題は裁量労働制の方で、裁量労働制というのは労働者に労働時間や仕事の仕方に裁量を持たせてる代わりに労働時間を一定とみなして報酬を決定するとう制度です。

こちらは年俸制に残業代を含める場合とは違って、何時間残業してもみなし労働で定めた労働時間とされ、追加の残業代は出す必要がないです*1(ただし深夜手当と休日手当は出す必要がある)。

裁量労働制は労働者にとって凶悪なため、企業が裁量労働を採用するためには労使協定を監督官庁に提出しなければならないと決まっています。労使協定は労働者の代表者と交わすのですが、この代表者は民主的な方法で選ぶ必要があって、経営者が指名した場合などは無効になります。また、労使協定は3年ごとに見直すことになっているので、そのタイミングで反対することも可能です。

裁量労働制はそもそも何を持って「裁量」とみなすのか?という判断基準があいまいで、ただ単純に残業手当を減らすために悪用されている場合がほとんどのようです。

監督官庁に判断基準を問い合わせても個別に判断するとしか教えてくれなくて、時間で管理されていたらダメとか指示系統が存在したらダメとかも教えてくれません。派遣労働法の派遣労働と裁量労働制は矛盾しないのか?という質問も管理している組織が違ったりするので、お互いに向こうに聞いてくれとか言われたり、労働相談所だと担当によって意見が食い違ってたりします。労使協定で労働者が合意してしまっている部分もあって、判例もあまり有効そうなのが見つからなかったり。

いろいろ調べた結果、何をもって「裁量」と言えるのかはさっぱりわかりませんでした。

個人的な感想としては、基本的に一人で仕事をする人とか、OpenSourceで活躍していて研究に近い業務で成果挙げている人とか、プロジェクトのマネージャをしてる人などに裁量労働を適用するのは納得がいくのですが、納期プレッシャーが存在したり、指示系統や労働時間が決まっていて、仕事を早く終わらせても別の仕事が降ってくるだけのような一般的なソフトウェアプロジェクトのメンバーに裁量労働を適用するのは無理がありすぎると思います。

特に派遣労働のような事業をしていて、契約で残業代を請求しているのに裁量労働とか言ってる企業は悪徳企業と言ってしまってよいと思います。

まあ、まとめると残業代が出ないと思っている人は次の事をしてみるとよいかもです。

といったところでしょうか。

今回は知り合いが半年で320hの残業をさせられて、それで残業代が0っていくらなんでもおかしいんじゃない?と思ったのをきっかけにいろいろ調べたのですが、交渉の結果、それなりの金額を払ってもらえることになりました。ちょっとでもおかしいと思ったら調べて動いてみた方がいいですよーって事で。ダメでもたいした損はしないですし。

*1:wikipediaに超過した分は支払うとあるけどこれは誤り